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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)81号 判決 1985年12月25日

控訴人(原告) 大谷光紹 外一名

被控訴人(被告) 文部大臣

参加人 真宗大谷派

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

原判決を取り消す。

本件を東京地方裁判所へ差し戻す。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決

二  被控訴人ら

控訴棄却の判決

第二当事者双方の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録の記載と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人大谷

1  控訴人大谷は本願寺の法嗣であり、本願寺法嗣であるための要件として真宗大谷派の僧侶であることを規定する規則は存在しない。

本願寺の教義は、法脈・血脈を必須の要件とするものであり、親鸞聖人の説いた教えを親鸞聖人の血統を継承する者が説くものが本願寺の教義である。したがつて、親鸞聖人の血統を引かないものが真宗大谷派の教義を宣布する人的構成要素となるためには、真宗大谷派の僧籍が必要であるが、親鸞聖人の血統を引く控訴人大谷にとつては僧籍は不要である。

したがつて、本山寺法(被控訴人らは、本山寺法は昭和五六年六月一一日に廃止されたと主張するが、その廃止手続には本件規則変更と同様のかしがあるので、その廃止は無効である。)も、法嗣の要件としては、宗祖の系統に属する嫡出の男子であること、住職後継者であること、得度式を受けていることの三点を規定するのみで(同法七条一項、三項、一三条一項)、僧籍については全く規定を設けていない(本山寺法一五条二項は、連枝の僧籍を本山に置く旨規定しているが、本願寺住職・本願寺法嗣の僧籍については何ら規定していない。)。

ところで、真宗大谷派宗憲の規定によれば、得度式とは本派(真宗大谷派)の僧侶となる儀式をいうとされているが、得度式は真宗大谷派を含む一〇派の浄土真宗の僧侶となる儀式であつて、真宗大谷派宗憲の右定義規定は正確を欠くものである。

このことは、僧侶条例九条が「他派から本派に転属した者は、別に得度式を行うことなく僧籍簿に登録し既度牒を受ける。」(既度牒を受けるとは、他派の統理者より受けられた度牒に裏書のような行為をなすことである。)と規定し、浄土真宗の他派において得度式を受ければ再度真宗大谷派の得度式を受けなくてもよいとされていることからも明らかである。

右のように、得度式は得度式として独自の存在意義を有し、度牒を受ける行為あるいは僧籍簿に登録する行為とは全く別個の行為である。

したがつて、本山寺法が法嗣の要件として、得度式を受けることのみを規定し、僧籍登録を要件としていない以上僧籍削除をもつて法嗣の地位を否定することはできない。

なお、控訴人大谷が本願寺の僧籍簿に登載されていた事実は存在せず、参加人は内事章範なる内部規定を勝手に制定し、この内部規定によつて特別僧籍簿を作成し、これに控訴人大谷を登載した上でこれを削除したものである。

2  控訴人大谷に対する僧籍削除は宗務総長が行つているが、僧籍削除の権限を有する者は、特別の定めがない限り僧籍を与えた者であると解すべきところ、真宗大谷派において僧籍を与えた者は本願寺門跡・本願寺住職・真宗大谷派法主であり、宗務総長ではない。したがつて、宗務総長は僧籍削除の権限を有しないものである。

また、世俗的機関に過ぎない宗務総長が、本願寺門跡の宗教上の権限を行使することは、宗教法人法一八条六項違反であり、その僧籍削除は無効である。

二  控訴人橿原

1  本件規則附則2項は「この法人が包括する法人の規則中、真宗大谷派の管長の職務に属する事項は、真宗大谷派の宗務総長が行うものとする。」と規定し、一方真宗大谷派の内部規則である寺院教会条例は「管長は、住職、教会主管者又はその代務者を甚だしく不適任と認めるときは、その変更を命じ、又は差免し、新たに任命することができる。」と規定している(同条例二二条)。

したがつて、本件規則の変更により、管長の住職に対する変更、差免、任命などの権限が宗務総長に移転したことになり、被包括法人たる順慶寺の住職である控訴人橿原は右規則の変更に利害関係を有するものである。

2  本件規則の変更により、管長の監教権が宗務総長に移転した上、監教権行使の基準も変更された。すなわち、旧宗憲四条によれば、従来真宗大谷派の教義は宗祖の系統に属する嫡出の男子が承継するものとされていたが、これが改正され(新宗憲八条)、血脈相承は喪失された。そして、教義の判定者は、管長・法主から宗務総長が任命する董理一〇人以内で構成される董理院に変更になつた。したがつて、監教権の基準・教義そのものも変更されたというべきである。

三  被控訴人文部大臣

1  控訴人大谷が現在も依然として効力を有すると主張する旧宗憲は、その一条において、「本派は、真宗大谷派と称し、本山本願寺を中心として、寺院、教会その他の所属団体、僧侶及び壇徒、信徒を包括する宗門である。」と明定して本派に所属する団体、僧侶等の範囲を規定した上、特に第八章第一節に「僧侶及び教師」の項を設け、その七七条において、参加人の僧侶につき「得度式を受け、僧籍簿に登載された者を、本派の僧侶と称し、本派を護持する義務を負ふ。」旨、七八条において、「僧侶は、寺院又は法人である教会に所属する。」旨、七九条二項において、「僧侶及びその身分に関する事項並びに教師補佐の資格、等級及びその称号は、条例でこれを定める。」旨規定し、これを受けて定められた僧侶条例は、八条において、「得度式を受けた者には、度牒を授け、これを僧籍簿に登載する。」旨規定している。いうまでもなく、旧宗憲は、本派の教義・儀式、法主、管長・代務者、宗議会・参与会、内局その他の機関、寺院・教会等参加人の宗教上の事項の最も基本的なものについて定めたものであるが、法嗣を七七条以下の僧侶から除外する旨の明文の定めは存しないから、法嗣は当然に旧宗憲及び僧侶条例にいう「僧侶」に含まれるのである。しかるところ、控訴人大谷は、前記規定に従つて得度式を受け、本山本願寺の僧籍簿に登載され従前は本山本願寺に、その後は東京本願寺に所属していたのであるから、旧宗憲にいう僧侶に該当し、僧侶条例が適用されることはいうまでもない(なお、控訴人大谷が主張する特別僧籍簿は、内事章範(昭和五六年六月一一日施行)一〇条の規定によつて新たに作成されたもので、従前の本山本願寺の僧籍簿を移記したものである。)。

そして、僧侶条例一九条柱書は、「左の各号の一に該当するものは、その僧籍を削除する。」、同条四号は、「本派に僧籍ある者が更に他宗派の僧侶となつた者」、二〇条柱書は、「左の各号の一に該当するときは、その僧籍を削除することができる。」、同条二号は、「他宗派の寺院又は教会に居住し、若しくは本派の僧侶としてその実がないとき。」と、それぞれ規定し、僧侶条例施行条規一九条一項は、「本派から離脱した寺院に所属する僧侶は、出願のない限り本派から離脱したものとみなし、その籍を削除する。」旨規定している(なお、僧侶条例は昭和五六年六月一一日に、同条例施行条規は同月二七日及び同年九月二〇日に一部改正されているが、前記各条項についての改正はない。」ところ、控訴人大谷は、その所属する東京本願寺が参加人との被包括関係を廃止したことに伴い参加人から昭和五六年六月一五日その僧籍を削除され、本山本願寺の法嗣(参加人の新門)としての地位を失つたものである。

ところで、控訴人大谷は、僧侶条例一九条四号及び二〇条二号にいう「他宗派」とは、全く異質な宗教団体ないしは異なる教義宗旨を護持する宗教団体を意味するものと主張するもののようである。

しかしながら、旧宗憲一条は、前記のとおり「本派は、真宗大谷派と称し、本山本願寺を中心として、寺院、教会その他の所属団体、僧侶及び壇徒、信徒を包括する宗門である。」旨定義していることから明らかなとおり、旧宗憲及び旧宗憲に基づいて定められた僧侶条例にいう「本派」とは、寺院、教会等の所属団体及びこれに所属する僧侶、壇・信徒を包括する団体をいうのであり、「他宗派」とは右以外のものを指称するのであるから、控訴人大谷主張のような宗教団体の同質性とか教義、宗旨の異同等とは直接関係がないのであつて、たとえ教義、宗旨、儀式等が類似しているとしても、本派に現に包括されているものでない限り、他宗派であることはいうまでもない。したがつて、所属団体が被包括関係を廃止すれば、当該団体はその一事により当然に他宗派になるものといわなければならない。

2  本件規則及び変更前の規則に被包括法人の住職任命権、解任権が規定されていたことはないから、本件規則の変更によつて、右権限が変更されたとの控訴人橿原の主張は失当である。また、宗務総長の選定に関する事項、参務等の任命に関する事項の変更は控訴人橿原の具体的権利ないし法律上保護された利益に何ら影響を与えるものではない。

監教権なるものは、宗教法人法上はもとより、参加人の規則上も存在せず、本件規則の変更と関係がない。

四  参加人

1  本山本願寺には古くから僧籍簿があり、それには控訴人大谷の父で長期間本願寺の住職・管長の地位にあつた大谷光暢、祖父であつた大谷光演も登載されており、昭和四年四月一八日当時法主であつた大谷光演に対し僧籍削除の処分がなされたことも記載されている。

2  本件規則によつて変更されたのは、被包括法人の設立、重要財産の処分、規則の変更、合併及び解散についての承認権が管長から宗務総長に移つただけであり、これらが控訴人橿原の具体的権利、利益に影響することはない。

理由

当裁判所も、控訴人らの本件訴えは法律上の利益を欠き不適法であると判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決理由と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決二五枚目表一〇、一一行目「負う」を「負ふ」と、原判決二六枚目表一行目「登載」を「登録」と、原判決二七枚目表二行目「一項」を「二項」と、原判決二七枚目裏末行「門主」を「門首」と、原判決三一枚目表八行目「なるのが」を「なるのか」とそれぞれ改め、原判決二五枚目裏四行目「公示第二号)」の次に「一〇条一、二項」を、原判決二七枚目表末行「僧侶条例」の次に「二条」をそれぞれ加え、原判決三〇枚目表一〇行目「参加人の」を削除する。)。

一  原判決二四枚目裏一〇行目「但し、」から原判決二五枚目表二行目「みなされている。」までを次のとおり改める。

ただし、昭和五六年六月一一日、真宗大谷派宗憲が改正され、従来の法主・管長・本願寺住職の三職を改めて、象徴としての門首制(門首は、僧侶及び門徒を代表して、真宗本廟の宗祖聖人真影の給仕並びに仏祖の崇敬に任じ、僧侶及び門徒の首位にあつて、同朋とともに真宗の教法を聞信する。新宗憲一五条)を採用することとしたことに伴い、従来の本山寺法が廃止され(新宗憲附則6項)、真宗本廟条例、内事章範が定められたが、真宗本廟条例によれば、真宗本廟は本願寺とも称され、旧宗憲下におけると同様参加人の唯一の本山とされ(同条例二条)、門首承継の第一順位者は、旧宗憲下の本山本願寺住職(門跡)の承継者に関する定めと同様、宗祖の血統に属する嫡出の男子で門首の長子とされ(内事章範一条一項一号)、門首の長子または門首の長子の長子(第二順位者)で得度式を受けたものを新門と称し(内事章範七条一項)、従前の法嗣は新門とみなされることになつた(内事章範附則2項)。

二  原判決二七枚目表二行目末尾に次のとおり加える。

控訴人大谷の僧籍も、法嗣として本願寺に置かれていたが、内事章範制定後は、新門として特別僧籍簿に登載されていた。

三  原判決二七枚目表三行目「原告大谷」から同四行目「発生したので、」までを次のとおり改める。

控訴人大谷は、昭和五四年六月ころから、東京別院東京本願寺の宗派離脱を表明し、門徒評議員会、宗議会の離脱反対の決議を無視して、東京都知事に対し参加人との被包括関係を廃止する旨の申請をしたので、参加人宗務当局は、昭和五六年六月一二日、新宗憲が公布されると同時に公示された内事章範に基づき、内事会議を開き、控訴人大谷の僧籍、新門の身分、資格について諮問したところ、東京都知事に対する右申請が認証されたときは、控訴人大谷は参加人の僧侶たる資格を失い、当然、新門及び連枝としての身分を失うとの答申を得、さらに同日開催された継承審議会において、控訴人大谷は内事章範四条(「門首後継者又はその順位に当る者に精神若しくは身体の重患があり、又は門首後継者としてふさわしくない行為があるとき若しくは重大な事故があるときは、継承審議会は、第一条に定める順序を変えて門首後継者を定めることができる。」。なお、本山寺法一一条にも、住職後継者又はその順位に当たる者に重大な事故などがあるときは継承審議会の議決を経て住職後継者の順序を変更することができることになつていた。)により参加人の新門及び門首後継者としての地位及び身分を失うこととし、門首後継者の順序を変更して内事章範一条一項二号に定める者(大谷光見)とする旨の決定をした。そして、

四  原判決二七枚目裏末行「原告大谷は、」の前に次のとおり加える。

控訴人大谷は、真宗大谷派の僧侶であることが本願寺法嗣であるための要件である旨を定めた規則は存在しないので、真宗大谷派の僧侶であることは本願寺法嗣の要件ではないと主張するが、本願寺法嗣なる地位は本願寺における宗教上の地位であるところ、旧宗憲下の本山寺法一三条一項は「住職後継者で得度式を受けた者」を法嗣と定めていたのであり(新門も得度式を受けたことが要件になつている。内事章範七条一項)、得度式とは、真宗大谷派の僧侶となる儀式であるから(旧宗憲九条二項、新宗憲一二条三項)、真宗大谷派の僧侶であることが法嗣あるいは新門の要件になつていることは明らかであり、控訴人大谷の右主張を採用することはできない。また、

五  原判決三〇枚目裏三行目の次に行を改め、次のとおり加える。

8 本件規則の認証は、参加人の申請に基づき参加人に対してなされたものであるから、控訴人大谷は本件認証についてはいわば第三者であり、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有しなければその原告適格を認めることができないものであるところ、控訴人大谷は、右法律上の利益に関し、控訴人大谷は本願寺の法嗣として別院の代表役員になり得る地位にあるが、本件認証に係る規則の変更により右地位を喪失したので本件認証の取消しを求めるにつき原告適格を有すると主張するので、この点について検討するに、前出各証拠並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、成立に争いのない同第二号証によれば、控訴人大谷は本山本願寺の法嗣であつたことが認められるが(本件認証時には、法嗣なる地位は廃止され新門とみなされることになつていたが、その点はしばらくおく。)、法嗣なる地位は、本山寺法によつて定められていた宗教上の地位であり、本山寺法には、法嗣が別院の住職(宗教上の地位)になり得る旨の規定(同法一三条三項)があつたとはいうものの、別院の代表役員になり得る直接の根拠は各別院が定める各規則によるものであつたこと、本件規則には、その変更の前後を通じて、法嗣が別院の代表役員になり得ることを定めた規定はなく、およそ法嗣に関する直接の規定は全く存在しないことが認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、本件規則が変更されても、これによつて控訴人大谷の法律上の地位に直接、具体的な影響を与えるものと認めることはできないので、控訴人大谷が本願寺の法嗣であることを理由として同人の原告適格を認めることはできない。

また、控訴人大谷は、同控訴人は本願寺の次期管長になる地位にあるところ、本件認証に係る規則の変更により従来管長が有していた宗務総長、参務、評議員、常務員、会計監査院長及び被包括法人の代表役員等の任命権がすべて否定されたので本件認証の取消しを求めるにつき原告適格を有すると主張するので、この点について検討するに、旧宗憲一六条一項によれば、管長は宗議会及び門徒評議会によつて推戴されることになつていたので、本願寺の法嗣であるからといつて当然に管長になり得るものとは認められない。

もつとも、本山寺法一三条一項によれば、法嗣は本願寺住職の後継者とされており、旧宗憲一一条によれば、本山本願寺の住職は真宗大谷派の法主となるものであるから、法嗣が将来管長に推戴される蓋然性のあることは認められるが、法嗣の右のような地位(旧宗憲及び本山寺法に基づく宗教上の地位)は事実上の地位に過ぎなく、法律上保護された地位ということはできない。したがつて、本件認証に係る規則の変更によつて管長の権限に変更が生じたとしても、それによつて右のような事実上の地位にあるに過ぎない者の具体的権利ないし法的利益が直接影響を受けるものでないことは明らかである。

したがつて、本件認証に係る規則の変更によつて管長の権限に変更が生じたとしても、控訴人大谷は本件認証の取消しを求める原告適格を有しないというべきである。

その他、本件全証拠によるも、本件訴えにつき控訴人大谷の原告適格を認めるに足りる証拠はない。

六  原判決三二枚目表三行目「本件規則の」から同四行目「異同はなかつたのであり、」まで及び同七行目「同原告の主張は」から同末行「採用することができない。」までを削除する。

以上によれば、控訴人らの本件訴えはいずれも原告適格を欠き不適法なものであるから、いずれも却下すべきものであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件各控訴はいずれも理由がない。

よつて、本件各控訴をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森綱郎 高橋正 清水信之)

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